楽観ロックのつぶやき

皆さんのおそばに一言添えたい。

【読了】ネメシスの使者

中山七里著
「テミスの剣」と対になる本作。出てくる渡瀬警部の存在が気持ちいい。
にしても、これは社会はミステリ、とかいうのでしょうか。死刑制度の是非を考えさせる深い内容になっている。現在の日本の法律では、死刑相当の犯罪を犯しながらも、無期懲役と生きながらえてしまうことに対する是非、犯罪被害者に対する世間の冷たさ、彼らの境遇と想い。義憤を意味する「ネメシス」をダイイング・メッセージのように残していく犯人の想い、など、現在の日本の死刑制度を考えさせながら物語は進んでいく。
 結局、あっさりと犯人は捕まってしまうのだが、どんでん返しのプロはそんなことでは終わらなかった。途中まで、単なる社会派犯罪小説、と思いながら読み進めており、どんでん返しを考えると、犯人はあの人かな、この人かな、などと考えていた。が、それら全て裏切られたどんでん返し。やるなぁ。
 日本の再犯率が高いのは、世間が暮らしにくい、刑務所の中のほうが暮らしやすい、などあるのかも知れないが、本当の、究極の刑罰とは何なのか、最後の最後まで読者に問いかける内容。重いと言えば重いのだが、普通に警察もののミステリーとしても楽しめる。あー、また中山七里にやられてしまったな。。。

 

【読了】キウイγは時計仕掛け

森博嗣
いや待って、何なのこれ。解説を読まなかったら酷評するところでした。読み終わってモヤモヤ感が半端ないんですよ。
 一体キウイはなんだったの?
 γってなんだったの?
 時計仕掛けって、どこから来るの?
 そんなん全部解消せずに終わってしまった。読者に考えろって?いやそれは無理ゲーじゃない?と思って解説を読むと、大きな「Gシリーズ」の流れの大詰めの手前、クライマックスの手前で、次作「χの悲劇」を読まねばならない。森博嗣初心者(本作で2冊め)の私としては、犀川先生や西之園さんが出てくると、あー知ってる、と思うのですが、その他のいつものメンバーと言われる人達は知らないし、でも軽妙な会話でスルスル読めちゃうし、その中の引っかる言葉とかも興味を惹かれつつあっという間に読み切れはするのですが。。。
 では、Gシリーズって?と思って調べてみると、「φは壊れたね」から始まり、θ、Τ、ε、λ、η、α、βと来て、このγがあって、次がχ。もしかすると、「すべてがFになる」に出てくる超天才の真賀田博士が全てに関わっているのではなかろうか、と初心者は思いつつ、次作を読むか、φからなぞっていくか、悩むのでありました。
 本作に出てくる、すでに大学を卒業しそれぞれ社会人となった個性的な若者に惹かれながら、読み進めていくことになります。著者の森さんが愛知の出身で、名古屋大学で教授をしたり、建築材料の専攻だったりするので、ベタは名古屋弁で、建築関係の学会が舞台なのは、事実関係も織り交ぜながら書いているんだろうなぁ、、、と想像しながらになります。しかし各章の最初にされている散文的な数行など、私には難しくてよくわからないし、それがきっと物語に対するなんらかの示唆だったりするのかもしれないけど、よくわからない。

 普通に一作でおおおっ!となる作品を求めていたので、Gシリーズの中から、本作を最初に手にした私が悪うございました。

 こういう方の頭の中はどうなっているのでしょうね。

【読了】いけない

道尾秀介
 いや、なんなの、この物語。最後の最後に犯人捕まるわけでもないし、謎解きも中途半端で終わってしまう。何という作りなのか。。。四章からなる物語だけど、各章を念入りに読み込み、それぞれ刑事かのように現場検証し、推理し、そして各章の写真(絵)で、その謎解きの結果を確認する、という感じでしょうか。でもその写真を見たって、正解が明確に書かれているわけではなく、あくまで推理にとどまる。いやまじかよ。。。
 で、各章が別の物語かと思いきや、全編通して一本のユニバースになっているなど、凝った作りになっている。これは書くの大変だったろうな。。。
 繰り返しますが、すごいな。文中に出てくる、伏線だか伏線じゃないのか、よくわからないものが、名刑事か名探偵のように写真を見たり、物語を振り返ってみるとそれが根拠となって事実がわかるようになっている。
 最後の章を読み終わった後、これまでの事件の事実関係がもやもやした状態で、え?この後どうなるのよ!!とまた読者を考えさせる終わり方。そしてそれらをスッキリ振り返った後に気づく各章のタイトル。あーそういうこと、だからこの章タイトル?
 一つの芸術作品とでも言っていいのかもしれない。
 なんにも考えずに読み切っちゃったら、なんだかよくわからなかったな、とか、え?結局犯人誰なの?で終わってしまうかもしれないけど、いやいやどういうことなの?とページを戻って、現場検証を進めれば何となく分かる、
 このストーリーの謎解きをするサイトがあるくらいで、それがないと逆にこのストーリーの凄さにも気づかないかもしれないくらいの出来上がり。しょうがない。次作も読むか。。。
 読み終わったあとにネタバレサイトを見れば、よりこの作品の凄さがわかるかも。

人間の能力には大きな差はない。あるとすればそれは根性の差だ。

「人間の能力には大きな差はない。あるとすればそれは根性の差だ。」 (土光敏夫


 以前記載した覚えがあるが、私はローパフォーマーという言葉が嫌いだ。アンダーアチーバーという言葉を紹介した。基本、人には個性があるから、得意不得意は当然あるし、特に同じ会社に入社してくる人たちなんて、面接やなんやら人事でもフィルタが掛かっているわけで、大して差があるとは思えない。
 にも関わらず、あいつ使えねーとか、LPがいる、というのは、やっぱりその人の得意分野を見極める努力をしていないとか、不得意なことを無理やりやらせているのじゃないの?使いこなせない自分を嘆いてほしい。
 特に弊社みたいに、大きな会社は人事もしっかりあるし、新卒採用担当などもいるわけで、早々変なの取ってこないよね。だとすると彼らの能力にはそれほど大きな差はないと思うし、それを使いこなしてなんぼだけど、本人に問題があるとすれば、それが根性なのか? 私はやる気だと思う。
 なせばなる なさねばならぬ何事も ならぬは 人のなさぬなりけり
 やればできるのに、やろうとしない。やらないのは自分ではなくて、環境のせい。そんな考え方してる人は、そりゃアンダーアチーバーになるよな。。。

【読了】すべてがFになる

森博嗣
何やら評判が良く、メフィスト賞受賞等など聴いたので、読んでみた。
 書かれてから四半世紀も経ってから言うのも気恥ずかしいが、こりゃまたすごい作品である。文章も何気なく読み飛ばしちゃいけないような記載がふんだんにある。この一文は伏線だろうか、みたいに。そう思うと、一文一文に気を抜けない。
 現実とは何か、生物とは何か、学問とは、研究とは、など哲学的な記載もあるが、決して押し付けではなく、登場人物のあくまで個人の想いとして語られるため、ふーん、うーん、と考えながら受け入れられる。
 ここまで書くと、この作品は、哲学書なのか随筆なのかわからなくなるが、ミステリィである。理系作家であり、工学博士の書いた、ミステリィである。いやこれ書いた人絶対頭いい!って思う(上から目線ぽくて申し訳ない)。だけど面白い。
 孤島という密室の中の、セキュリティバッチリな研究所、の中の更にセキュリティの高い区画、という3重の密室の中の出来事なのに、設定に無理さを感じない。ミステリィ作品としても、どこまで行っても犯人がわかったようなわかっていないような流れで、最後の最後まで裏切られる。そのトリックだって、非現実的ではない。そういうところすごい。
 タイトルに隠された意味も、最後の方にならないとわからないが、これまた、そういうことか!という気付きも面白い。
 難癖つけるとすれば、登場人物の一人の犀川先生がヘビースモーカーであること(嫌煙家に配慮しますw)と、萌絵ちゃんが金持ちで、人脈広すぎることぐらいか。あとはコーヒーをよく飲むけど、コーヒーの香りただよう記載がもっと欲しかったかな。些末なことばかりだ。
 本作品、英語版もあるらしいが、海外では広く読まれているのだろうか。
 もう何作品か読んで、おすすめの作家は?と聞かれたら「森博嗣」と答えられるようになりたい。そう思わせるくらいの高評価な作品であった。

 

【読了】テミスの剣

中山七里著
どんでん返しの帝王?とかいわれてるが、そういう作品ばかり読んでたせいか、そのようには感じなかった。が、思い起こせば冒頭から結構伏線やなど作者が鳥瞰的に見てパーツパーツを埋め込んでいたことに気が付き、唸らされた。
しかし、決して派手ではない内容でありながら、人を捌くとは、正義とは、など深いテーマにどんどん切り込んでいく。なかなかな作品である。
 途中までは、ただの冤罪ものかと思ったが、ただでは終わらない、というところがどんでん返しの帝王たるところか。真犯人が、とかも関係ない。冤罪に巻き込まれた人、冤罪にしてしまった人々、組織を守るのか自身の正義を守るのか、その中で苦しむ刑事、被害者家族、関係した判事、刑事、警察組織などなど。
 最後はきっちり勧善懲悪みたいな感じで終わってくれたので、読後感は悪くはないし、読みやすい文体ですんなりと短時間で没頭して読み切ってしまった。
 社会的なテーマであるため、自分の中でもんもんと悩むこともないと思うが、警察もののミステリーとしては話題作と言っても良いかもしれない。
 にしても、日本の小説は単にミステリーやサスペンスと言っても、様々な個性的な作者も多く、また一人素晴らしい小説家にであったとおもう。日本すげー。

 

【読了】パワー・オフ

井上夢人
 なんかSFが読みたいと思って手に取った本作。読み始めると、なんか時代を感じると、作品年を見るとそうか1996年作品か。そういうことか。私もいわゆるIT業界に身を置き、汎用機から、UNIXワークステーションMS-DOSからWindowsを経験していることもあり、中で語られる技術的な用語は説明なくともだいたい分かる。1996年といえば、Windows95が発売された翌年程度だから、本作が書かれたのはせいぜいWindows3.1の時代か。だとすれば、まだまだMS-DOSの時代だし、インターネットも全然普及せず、NiftyPC-VANなどのパソコン通信を、電話にモデムを繋いでピーヒャラヒャラとやってた時代だ。
 そんな時代にウィルスを作ったことから始まる事件。途中まではウィルス作ってワクチン作って、それで終わるのかと思いきや、大きな話になっていくあたりは、ただでは済ませないSF小説なのだな。ただ、もう少し近未来な話を書いてほしかった、と思うのは、これが書かれてから四半世紀後だからなのだろうか。半分くらいまで読んで、困難で終わっちゃうのかな?でもまだ半分だぞ。これからどう展開していくんだ?とちょっと楽しみながら読み進めました。
 ZARCのモデルは、絶対LHAだと思うし、なんか近くにあるような話にも思え、面白いっちゃー面白い。