AIを使って何かできないかと言い始めたら危険信号。DXの失敗に学ぶ、本来のAXの進め方

とにかく「DX推進だ」と騒がれた時代が過ぎたと思ったら、今度は「これからはAXだ」という声があちこちから聞こえてきます。
正直なところ、現場で交わされる会話を聞いていると、どうにも強い既視感を覚えてしまうのです。
「とにかくAIを活用して、何かできないか?」
実際、私も客先で「DXしたいんだけど、何からやったらいいの?」と聞かれたり、最近では「とにかくAI活用しないといけないんだけど、なんかない?」と相談されたりすることが、正直なところ何度もあります。
この言葉が出てきた時点で、かつて多くの企業が落ちた穴に、また足を踏み入れかけているのかもしれません。
これまでの振り返り:DXはなぜ失速したのか
DXの失速は、技術そのものの問題ではありませんでした。
本来のDXとは、デジタル技術を活用して事業のあり方や組織文化、働き方そのものを変革する取り組みだったはずです。しかし実際には、多くの企業で「変革」よりも「導入そのもの」が目的になってしまいました。
振り返ってみると、DXが失速した背景にはいくつかの共通パターンがあるように思います。
トランスフォーメーションが起きないままツール導入で止まった
多くの組織では、紙の書類をPDF化したり、クラウドサービスやワークフローシステムを導入したりと、「デジタル化」自体はそれなりに進みました。
しかし、本当に難しいのはその先です。業務プロセスを見直すこと、意思決定の仕組みを変えること、組織文化そのものを変革すること――そこまで踏み込めなかった結果、
ツールは増えたのに仕事は楽にならない
という不満だけが現場に残ってしまいました。
手段が目的にすり替わった
本来の目的は、顧客価値を向上させること、現場負担を軽減すること、生産性を高めること――そのはずでした。
しかし次第に、DXプロジェクトを立ち上げること、KPIを達成すること、DX推進の実績を作ること自体が目的になっていきました。
経営層の資料では成功しているように見えても、現場からすると、
本当に困っていることは何も解決していない
という状況が生まれてしまったのです。
2025年の崖は「静かに進行する問題」だった
2025年の崖という言葉は大きく取り上げられました。
しかし実際には、ある日突然社会全体が崩壊するような話ではありませんでした。
現場で起きていたのは、大型コンピューターの維持費だけで予算が消えたり、技術継承ができずに退職したOBを呼び戻したりする、といった問題です。私の会社でも、退職後に弁当屋を始めた方が2年ほどして呼び戻され、70歳を過ぎても働いていた、なんてこともありました。せっかくメールでデータが届いているのに、それをわざわざ印刷して見ながら手入力している、という話を聞いたこともあります。
つまり、「変革を先送りした代償」が少しずつ積み上がっていたのだと思います。
問題を先送りした企業と、早めに手を打った企業。その差は今や隠しようもありません。
バズワードだけが看板を変えて循環する
振り返ると、IT化、DX、AI活用、AXと、新しい言葉が次々と登場しています。
そういえば昔、当時の森喜朗首相が「IT革命」を「イット革命」と口にして失笑を買った、という話が語り草になっていますね(実際は国会ではなく、省庁幹部との打ち合わせでの発言だったと週刊誌が報じたのが発端のようですが)。あれから四半世紀近く経った今も、「新しい言葉が現場に馴染みきらないまま先を急ぐ」という構図は、あまり変わっていないのかもしれません。
もちろん技術そのものには価値があります。しかし、組織の風通し、現場の声を拾う仕組み、変化への不安への配慮、迅速な意思決定――こうした本質的な課題に向き合わなければ、看板が変わるたびに同じ議論を繰り返すことになってしまいます。
DXが残した教訓
DXから学べる教訓はシンプルです。
問題だったのは技術ではなく、「技術を使って組織をどう変えるか」という視点の不足でした。
そして、その教訓は今始まろうとしているAXにも、そのまま当てはまるように思えます。
そして今、AXの現場で起きている「あるある」
DXが失速した原因が技術ではなく組織や運用の問題だったとすれば、AXでも同じ失敗が起きる可能性があります。
実際、現場ではすでに似たような光景を目にします。
有料アカウントを全社に配ったけれど、丁寧な挨拶文の作成にしか使われていない
経営層の「我が社もAIを導入する」という号令でツールを契約したものの、具体的な活用目的が共有されないまま運用が始まる。
結果として、メールの文章を整える程度で終わってしまいます。
社内問い合わせ用AIを導入したのに、元のマニュアルが古すぎて誤回答を連発する
業務効率化を目的に導入したものの、土台となるマニュアルやデータが整備されていません。
結果として、
AIに聞くより担当者に電話した方が早い
という本末転倒な状態になります。
「AIを使って新しいビジネスを考えろ」と現場へ丸投げされる
「切れ味の良い刃物を買ってきたから、何か切るものを探そう」
そんな道具先行の発想で、現場に丸投げされるケースも少なくありません。
しかし本来は、解決したい課題があり、実現したい価値があり、その手段としてAIを使う――という順番であるべきだと思います。
DXとAXに共通する根本課題
DXもAXも、本当に向き合うべき対象はシステムやツールそのものではありません。
むしろ重要なのは、人と組織の関係性です。現場の声が経営へ届くのか、部門間で協力できるのか、変化への不安が放置されていないか、意思決定が迅速に行われるのか――こうした土台が整っていない組織では、どれほど優れた技術を導入しても本当の意味での変革は起こりません。
「いつまでDXと言っているんだろう」
そんな現場の声の背景には、
本当に変えるべきなのはシステムではなく組織そのものなのではないか
という実感があるように思います。
AIの時代だからこそ、技術論だけではなく、人間側の課題に目を向ける必要があるのではないでしょうか。
今後AXを進めるうえで検討すべき4つの提言
提言1:目的と道具の主客転倒を絶対に起こさない
AIを使うことはゴールではありません。
出発点は常に、
誰のどんな悩みを解決したいのか
という課題の特定です。
現場の課題が曖昧なまま最新ツールを導入しても、誰も使わない仕組みが増えるだけです。
提言2:足元の古い仕組みや運用の整理を先送りしない
どれほど優秀なAIであっても、土台となる業務手順やデータ管理が乱れていては十分な成果を出せません。
過去の負債から目を背けたまま新しい技術を重ねても、身動きが取れなくなるだけです。まずは業務の整理整頓から始める必要があります。
提言3:単なる作業効率化ではなく仕事の進め方そのものを再構築する
AIを文章作成や調査の補助ツールとして使うだけでは、本当の変革とは言えません。
AIが存在することを前提として、業務フロー、判断基準、サービス提供のあり方――そのものを見直す発想が求められます。
提言4:巧遅より拙速で今すぐ小さな試行を始める
技術進化のスピードが激しい時代において、完璧な計画を待つこと自体がリスクになります。
100点の計画を作るより、60点の状態で小さく試し、走りながら改善する。
そのスピード感こそが成果を分けるのではないでしょうか。
最後に、少しだけ
新しい技術が登場するたびに飛びつき、目的を見失って消耗するサイクルは、そろそろ終わりにしたいものです。
「AIで何かできないか」と問いかける前に、「私たちは何を変えたいのか」を問い直すこと。そして、変えるべき対象をツールではなく組織や仕事のあり方として捉えること。
DXの時代に学ぶべき教訓があるとすれば、それは技術が変革を起こすのではなく、変革しようとする人と組織が技術を活かすということです。
AXが本当の意味での変革になるかどうかは、その原点を忘れないかどうかにかかっているのではないでしょうか。
看板だけ新しくして、同じ轍を踏まないように――そう自分にも言い聞かせながら、この記事を書いています。
ZERO ORIGINについて
ZERO ORIGINは、「自分らしく働く人を増やす」ことを目指し、キャリア支援と組織支援を行っています。
技術職としての現場経験と心理学の知見を活かし、キャリア、メンタルヘルス、組織づくりをテーマに、一人ひとりの声に耳を傾ける伴走型の支援を実践しています。
キャリアの悩みも、職場の課題も、個人だけの問題ではなく、人と組織との関係性の中で生まれることが少なくありません。
本ブログでは、人と組織がより良い関係を築くためのヒントを発信しています。
キャリア相談、組織運営、人材育成に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
▼ ZERO ORIGIN
https://www.zeroorigin.jp
